日本の社会保障と税制
――再分配政策の政治経済学――
授業の内容
オムニバス形式の寄付講座に出席しては、実業界をはじめとした人たちの話のノートをとるのに忙しく過ごしたりしている三田での生活の中、週に一コマくらいこういう講義があってもいいのではないかというような授業を行う。

この国で生きていくために知っておくことは必須であるはずなのに、実はほとんどの人たちがなにも知らない社会保障、この国の進路を考えるうえで決定的に重要な役割をはたしているのに、そういうことさえ何も知らないでノホホーンと生きている人たちからなる今の社会、大学、三田のキャンパス。そういう中、まじめにこの国の未来や公の出来事について深く考えてみるという、ビジネスなどとはほど遠く金銭的な御利益がいかにもなさそうなことを考えてもらう――というのがこの講義の趣旨である。

今年は、いろいろとおもしろい映画やドキュメントのDVDが手に入りそうである。できる限り、講義の中でそうした映像を鑑賞し、金曜日のお昼前に、三田のキャンパスの一角で君たちに非日常を味わってもらおうと思う。もちろん、DVDを観る際は、ポップコーンとポテトチップスの持ち込みあり。

また、社会保障関連の文献を読んでもらっては、レポートを書いてもらう、そういう一昔も二昔も前であれば当たり前だったはずの学生生活を味わってもらいたい。
文献は、できるだけ、旧図書館リザーブブックコーナーに置いておく。
暇があれば、趣のある赤煉瓦の旧図書館にこもり読書をする――そういう粋でレトロななライフスタイルも味わってもらおう。

講義といえば、時機にあった社会保障関連の題材を使っていろいろと話をしているために、講義で話している内容は毎年大きく異なっている。よって、最近は、3年次に履修して単位を取得した4年生が飛び入りで講義に出席する傾向もでてきており、個人的には、この傾向を大いに歓迎している。昨年度履修した学生も、時間があれば顔を出すことをすすめたい。特に今年は、社会保障を中心として世の中が大きく動くことは確実である。その動きをほとんど実況中継的雑談で説明することになるだろう。

なお最近は、この講義を履修できない他学部の学生が、単位とは関係なしに顔を出しているようでもある。他には、社会人や他大学の学生が遊びに来て、挨拶されていく場合もある。こうした傾向も歓迎しよう。
テキスト
テキスト 
<旧図書館リザーブブックコーナーに配置している>
権丈善一(2009)『社会保障の政策転換――再分配政策の政治経済学X
――――(2007)『医療政策は選挙で変える――再分配政策の政治経済学W
――――(2006)『医療年金問題の考え方――再分配政策の政治経済学V』 
――――(2005)〔初版、2001〕『再分配政策の政治経済学T――日本の社会保障と医療
――――(2004)『年金改革と積極的社会保障政策――再分配政策の政治経済学U
および、随時更新される下記ホームページに掲載される文章。
http://kenjoh.com/
目次(シラバス)
考えるという知的行為における、経済学の役割
経済学における、positive econoics(実証経済学) と normative economics(規範経済学)
規範経済学の流れ
  ケンブリッジ学派 vs LSE学派
  LSE学派からシカゴ学派へ
  そして再びケンブリッジ学派に
規範経済学と価値判断


社会保障とは、そして「再分配政策の政治経済学」とは?
経済学における「再分配政策の政治経済学」の位置
社会保障が国のかたちを決めるという言葉の意味は?
積極的社会保障政策と日本の歴史の転換――なぜ日本の歴史の転換なのか?
日本の社会保障と世界の社会保障
社会保障各論
 社会保障の財源調達 
 社会保障の政策手段
 生活保護
 公的年金の政策論
 医療保障の政策論
 経済政策としての社会保障 
などなど
評価方法
レポート、および学期末テスト
その他連絡事項
当講義は、君たちが「人口・労働問題と社会保障」(権丈英子亜細亜大学准教授・金曜日3限)を履修するものとして講義を進める。よって、人口・労働問題と社会保障問題との相互関係、ワークライフバランスの意味という今日きわめて重要なトピックについてはそちらにゆずる。
2007年度
授業の内容
社会保障関連の文献を読んでもらっては、レポートを書いてもらう、そういう形の講義にしたいと考えている。
文献は、できるだけ、旧図書館リザーブブックコーナーに配置しておく。
暇があれば、趣のある旧図書館にこもり読書をする。そういうライフスタイルに耐えられる人の受講をもとめる。

はじめは文献に書かれていることに歯が立たない、講義での話の意味がわからない、そういう状態だと思う。
しかしながら、講義に出席しつづけ、わたくしが紹介する資料――そのなかのひとつに新聞がある――を読みつづけているうちに、本に書かれている言葉、新聞や雑誌に書かれていたりテレビで論じられている内容の意味がしだいにわかるようになり、さらには、ひろく世間一般では社会保障とまったく関係なく論じられている諸々の事柄と社会保障との密接な関係が見えはじめてくる――はずである。

時機にあった社会保障関連の題材を使って、いろいろと話をしているために、講義で話している内容は毎年大きく異なっている。よって、最近は、3年次に履修して単位を取得した4年生が飛び入り(冷やかしで?)で講義に出席する傾向もでてきており、個人的には、この傾向を大いに歓迎している。昨年度履修した学生も、時間があれば顔を出すことをすすめたい。昨年度よりは、わたくし自身、すこしばかり多くの知識を身につけて、わずかばかりに多くの経験と思索を重ね話がバージョンアップしているかもしれない。そしておそらく、昨年度とは違った文献をすすめているはずである。なお最近は、この講義を履修できない他学部の学生が、単位とは関係なしに顔を出しているようでもある。他には、社会人や他大学の学生が遊びに来て,、挨拶されていく場合もある。こうした傾向も歓迎しよう。そしてできれば、この講義を履修した人たちには、テストを受けて単位を取得した後も、わたくしの「仕事の頁」を、時々チェックしてもらいたい。講義で話したことやわたくしの考えのその後の推移を、今後長く「仕事の頁」で君たちに伝えていくつもりである――ようするに、この講義の履修は、ネットを使った生涯学習の1年目の履修と諦めてもらったほうがいいのかもしれない。。。

春には春に起こった社会保障関連の出来事をきっかけとして、社会保障についての歴史的理論的な話をし、秋には、春の話を基礎にしながら秋に起こった出来事を題材として話をする。よって、秋のみの受講は難しいとおもう――のみならず、春だけの履修もひかえてもらいたい。

なお、この講義の長年の特徴の一つは、講義専用のホームページから資料をダウンロードしてもらうとともに、ホームページを通じて社会保障に関連する情報を、随時、君たちに提供できるシステムを活用していることにある。1999年より始めたこの方法のおかげで、タイムリーかつ相当の量の情報を、毎週、君たちに提供できるようになっている。
テキスト
旧図書館リザーブブックコーナーに配置している本を読んではもらう。
目次(シラバス)
社会保障とは、そして再分配政策の政治経済学とは?
社会保障と現代国家
社会保障と経済学、政治、そしてメディア
社会保障が国のかたちを決めるという言葉の意味は?
積極的社会保障政策と日本の歴史の転換――なぜ日本の歴史の転換なのか?
日本の社会保障と世界の社会保障
社会保障各論
公的年金の政策論
医療保障の政策論
社会保障政策と少子高齢化問題
社会保障政策と格差問題 
などなど
評価方法
レポート、および学期末テスト
学期末受験資格者は、次の@A両方の条件を満たす者のみとする。
@全レポートの提出者
A出席人数が少ない方から5回の講義のうち、少なくとも3回出席している者(毎回出席をとる)。
その他連絡事項
ハンドアウトは、毎週、http://www.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/index_jp.htm よりダウンロードしてもらう。
パスワードは最初の講義で連絡する。
この講義要綱を含めて過去の講義要綱もhttp://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/syllabus/ にある。
講義内容がどのように推移してきたのかに興味のある人は参照されたい。

講義には、前日23時までにアップされた資料をすべて印刷して出席のこと。
それが無理な人は、履修しないように。
また、教室の後ろ5列には着席を認めない。
2004年度〜2006年度
通年4単位 テストは秋学期末のみ
ただし、春学期は基礎編、秋学期は政策編と位置づけて講義を行う
意義と目的


 この講義の意義と目的は、最近の社会保障政策の動向を理解してもらうのみならず、君たちが大学を卒業し、社会で重責を担う年齢に達したときでも,自分自身で社会保障――のみならず世の中全体――の政策動向を評価し,さらには政策をデザインすることができる力を身に付けてもらうことにもある。そして、講義を進める際に、特に次の2つのことを意識する。

  • 物事を抽象的に考える(モデルを使って考える)大切さを分かってもらうこと
  • 望ましい政策を導き出す考え方は、実は、数多く存在し、考え方の数だけ「望ましさ」があるのを分かってもらうこと

なぜ、これら2つのことを意識した講義を行うのかを理解してもらうために、少し説明しておこう。

 今、君たちに、「社会保障に関する過去1ヶ月の政策動向を、10分間で分かりやすく説明せよ」という課題が与えられたとしよう。君たちの能力をもってすれば、この課題は難なくこなせるはずである。そこで次に、「過去1年の社会保障の動きを、10分間で分かりやすく説明せよ」と言われたとする。さらには、「過去5年、そして過去10年の動きを、10分間で分かりやすく説明せよ」と、質問の難易度がエスカレートしていったとしよう。この種の難問にみごとに答えるためには、現実の政策動向の中から、枝葉末節を取り除き、重要な要因のみをもって抽象化したシナリオを作る能力がなければならない。さらに時には、身近な例にたとえながら――身近な例に対する共通の理解の助けを借りて説明の時間を節約しながら――複雑な出来事を分かりやすく説明する能力が必須となる。これがすなわち、物事を抽象的に考える能力、モデルを使って考える能力、あるいは本質を見抜く能力というものなのである。こうした能力がなければ、10年のできごとを10分というコンパクトな時間に意味ある形で要約することはできない。そして意味ある形での要約ができないことは、意味ある形で理解できていないことと同じなのである。ここに物事を抽象的に考える(モデルを使って考える)という作業の大切さが生まれてくるのである。

 それでは次の課題については、どうであろうか。「社会保障の過去における政策動向を評価するとともに、将来の望ましい社会保障と税制の在り方を提案せよ」。この課題に答えるためには、何をもって「望ましい社会保障」のあり方なのかという評価規準を、どうにかして設定する必要がある。ところが面白いことに、何をもって望ましいとするかという評価規準は、実は、ひとつではなく、世の中にはたくさん存在するのである。わたくしは、君たちに、数多くの評価規準を示し、そのなかから、君たち自身が望ましいと思う望ましさ (?) を選択してもらいたいと思っている。何を言っているのか分からないかもしれないが、講義に出席していれば、不思議と理解できるようになるので心配の必要はない、と思う。

 このようなことを意識しつつ、具体的には、「社会保障のまわりで,過去10数年の間,いったい何が起こってきたのか,そしてこれから10数年にわたって,いったい何が起ころうとしているのか」を理解してもらえるように講義を進め、中長期的な視野で政策動向を大局的に把握する力を身に付けてもらいたいと願っている。

 また、社会保障は,ほとんど毎日、新聞の紙面をにぎわしているわりには,これらの制度は複雑で用語は特殊すぎるために,多くの人は,問題の所在をとらえきれていない。基礎編・政策編からなる, この社会保障論では,政策の動向を大局的に把握する力を身に付けてもらいながらも,制度,用語の説明を可能な限り行っていきたい。

 なお、この講義の特徴の一つは、講義専用のホームページから、講義のハンドアウト・関連資料をダウンロードしてもらうとともに、ホームページを通じて社会保障・税制に関連する情報を、随時、君たちに提供できるシステムを活用していることにある。1999年より始めたこの方法のおかげで、タイムリーかつ相当の量の情報を、毎週、君たちに提供できるようになっている。

目次(シラバス)
『春学期(基礎編)の目次』
再分配政策の実証分析T
  • 実証経済学と規範経済学
  • 再分配政策の実証分析
    • 最適所得移転――Hochman and Rodgersモデル
    • Directorの法則
  • 練習問題・参考文献

         
再分配政策の実証分析U

  • 投票者モデルと利益集団モデル
    • Beckerモデル
    • Denzau and Mungerモデル
  • 複雑な制度がデザインされる理由
    • Magee, Block and Youngモデル
  • 練習問題・参考文献
再分配政策の評価方法T
  • 厚生経済学の考え方
  • アマーティア・センの厚生経済学
  • 宇沢の社会的共通資本・宮本の社会資本の考え方
  • ロールズの社会評価
  • アローの不可能性定理
  • 不可能性定理に関する経済学者たちの所感
  • 練習問題・参考文献
再分配政策の評価方法U
  • 評価の規準(1)――ターゲット効率性
  • 評価の規準(2)――資源配分上の効率性
  • その他の評価規準
  • 練習問題・参考文献
最適課税
  • 新新厚生経済学における最適な所得再分配の考え方
  • なぜ歪みをもたらす税金を課すのか
  • なぜ累進度が増すと死重損失が大きくなるのか
  • 累進課税のもたらす死重損失の図解
  • 死重損失と再分配の関係
  • 効用可能性曲線と歪みをもたらす課税
  • 練習問題・参考文献
租税や社会保険料は誰が負担するのか
  • 租税の転嫁と帰着
  • 練習問題・参考文献
公共選択の考え方T
  • 慈悲深い専制君主モデルとリヴァイアサン・モデル
  • 立憲的租税制限付きの収入最大化政府
  • 課税ベースと税率の制限
  • 望ましい税制のイメージの違い――伝統的財政学と公共選択論
  • 練習問題・参考文献
公共選択の考え方U
  • リヴァイアサン・モデルに基づく財政選択論――普通税か目的税か
  • 財政選択のシミュレーション
  • 練習問題・参考文献
基礎編から政策編への橋渡し――日本の少子高齢化問題を考えるにあたって
  • 社会保障の形
  • 日本人の生活水準の維持と必要成長率
  • 少子高齢化社会に対するナンセンスな問題設定
  • 公平に対する価値判断と統治原理としての公平
  • 練習問題・参考文献
『秋学期(政策編)の目次』
  • 長期不況化にある日本の経済財政状況と社会保障の位置
  • 日本の社会保障の形と先進諸国の社会保障
  • Esping-Andersenによる比較福祉国家の理論と福祉国家の3つの世界
  • 社会保障の費用負担問題と所得再分配
  • 医療保障政策と医療経済学
  • 年金政策と年金の財政方式
  • 介護政策と医療政策の連携問題
  • 生活保護
  • 政策を通じて知って欲しいナショナル・ミニマム設定の難しさとスティグマ問題
秋学期の講義の順番は、その時々の政策の動きに歩調を合わせることを優先する。
評価方法
出席+秋学期末テスト(テストの事前に複数の問題を公開する。テストでは、そのなかから出題)
テキスト
権丈善一(2001)『再分配政策の政治経済学――日本の社会保障と医療』慶應義塾大学出版会
参考文献
権丈善一(2004)『年金改革と積極的社会保障政策――再分配政策の政治経済学U』慶應義塾大学出版会
池上直己・遠藤久夫・田中滋・二木立・西村周三(2004)『講座 医療経済・政策学』勁草書房
その他連絡事項
  • ハンドアウトは,毎週,http://www.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/index_jp.htm よりダウンロードしてもらう。パスワードは最初の講義で連絡する。
  • 講義には、その日の日本経済新聞を持参して出席することをすすめる。